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南アルプス北部縦走記(大井川源流の山をめざして)
川の水源に登るサークル 小林満男
朝雷とざっと降ってきた雨の音で目がさめた。そしてテレビで台風が3個も日本列島の近くにきていることを知り、山中を5日間も歩き続けてきた時間の空白を感じた。
今年は長梅雨で関東・甲信地方は7月30日にやっと梅雨明けとなった。このため、当サークルの南アルプス北部縦走は当初の予定を2週間延期して、8月3日から7日までの4泊5日で実施しました。
しかし、結果的には幸運で晴天続き、縦走登山の醍醐味を充分に堪能できました。
一方で、縦走の後半、私は大分バテまして、73歳となった己の体力の限界を思い知らされる、山行でもありました。
大井川源流の山(間ノ岳)をめざす登山でしたが、近くに日本100名山が鎮座しており、結果的に北沢(きたざわ)峠(とうげ)から入山し、仙(せん)丈ヶ岳(じょうがだけ)(3032.7m)〜三(み)峰(ぶ)岳(だけ)(2999m)〜間ノ岳(あいのだけ)(3189.3m)〜塩見(しおみ)岳(だけ)(3046.9m)〜三伏(さんぷく)峠(とうげ)の、仙(せん)塩尾根(しおおね)縦走コースとなった次第です。
そして、A班が縦走組、B班が仙丈ヶ岳登山組とし、参加者は12人でした。なお、日本河川協会長の近藤氏は当初A班でしたが、中国出張が入りB班で参加されました。
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図−1 南アルプス北部縦走コース
1.山行概要
リーダー:伊藤喜七郎、 担当幹事:黒田信忠  特別参加:近藤徹
参加者:A班(縦走4泊5日)6人 
伊藤喜七郎、小野忠幸、黒田信忠、小林満男、渋谷文利、(佐藤美智子)
B班(北沢峠〜仙丈ヶ岳〜両俣小屋2泊3日)6人
桑島弘治、近藤徹、関道男、竹入勝美、舘澤三郎、田中長光
コースタイム:
8月3日(木) 
A班:08.20新宿発〜12.30戸台(仙流荘)着、12.40発〜13.40北沢峠着・・16.30馬の背ヒュッテ着(泊)
B班:07.00東松山発〜10.00芦安着、バスで広河原経由12.00北沢峠着・・15.30馬の背ヒュッテ着(泊)
8月4日(金)
A、B班:05.45馬の背ヒュッテ発・・07.30仙丈ヶ岳(3032.7m)・・14.40両俣小屋着(泊)
8月5日(土)
A班:05.45両俣小屋・・10.40三峰岳(2999m)・・12.00間ノ岳(3189.3m)・・14.30熊ノ平小屋(泊)
B班:06.00両俣小屋・・野呂川出会〜広河原〜芦安〜東松山
8月6日(日)
05.30熊の平小屋発・・8.40北荒川岳・・13.00塩見岳山頂・・14.15塩見小屋(泊)
8月7日(月)
06.30塩見小屋発・・10.30三伏峠小屋・・12.30鳥倉林道終点(バス停)着、14.20発〜16.20清流苑着(入浴・休憩)18.20発〜18.40松川インター発〜22.00新宿着

2.山行記
一日目 晴れ
長梅雨からやっと解放され、晴れ晴れとした気持ちで新宿駅南口のバス停に集合した。
中央道を順調に走って、南アルプスの玄関口、戸台(仙流荘前)着。これより長谷村営バスに乗換え、南アルプス・スーパー林道を登る。林道は北沢峠(2033m)まで標高差が1300mもあり、これをバスは1時間かけて登る。この間、運転手さんが林道沿いの樹木や花の説明をしてくれた。メモをしたので主なものを列記します。
樹木:シラカバ、松、コナラ、カラマツ、山カツラ、ウダイカンバ、ダテカンバ、カエデ、ツガ
花:ブットレア(外来種)、シナノナデシコ、ヨツバヒヨドリ、ヤマアジサイ、クガイソウ、ギボウシ、ホタルブクロ、アカバナシモツケソウ、フジアザミ、
一方、B班は桑島さんの車で東松山駅を出発し、圏央道・中央道を走って甲府から芦安へ。ここでバスに乗換え、広河原へ、さらに村営バスでスーパー林道を北沢峠へ。
A、B班とも尾根道を登って馬の背ヒュッテへ約3時間。ヒュッテで両班が合流した。
夏山登山の最盛期で山小屋は満員でした。
二日目 晴れ
明けて快晴の朝、ヒュッテを早朝出発、ここで残念だが佐藤美智子さんが体調悪く、引き返した。仙丈小屋を経て、仙丈ヶ岳山頂へ。山頂では360度の展望、北に甲斐駒ヶ岳の勇姿と鋸岳、東に白峰三山(北岳・間ノ岳、農鳥岳)、西に中央アルプスの山並み、遠くに北アルプスの槍・穂高連峰など、すばらしかった。
私は長野県伊那市の出身ですが、里からみた仙丈ヶ岳の雄大な姿に子供の時から魅了されてきました。深田久弥は日本百名山の中で、「日本アルプスで好きな山は北では鹿島槍、南では仙丈である。何よりもその姿がよい。単純なピラミットでもなければ鈍重な容量(マッス)でもない。その姿に軽薄や遅鈍がないところが好きなのである。スッキリとして品がある。・・・」と書いています。
さて、奥仙丈ヶ岳(2975m)を越えて仙塩(せんしお)尾根へ。しかしこれからが長い、倒木も多い。皆疲れてきた頃にやっと伊那荒倉岳(2519m)へ着いた。さらに横川岳(2478m)を越えて野呂川越(峠)へ。ここから一気に下って両俣小屋(2020m)へ着く。
冷たい清流(野呂川−早川の上流)で汗を流した。小屋は女主人の経営、当方の2人が夕食の手伝いをしたら、皆にカンビールをご馳走してくれた。明日はB班と別れる、しばし山行談義となる。
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写真−1 仙丈ヶ岳山頂での集合写真
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写真−2 仙丈ヶ岳より甲斐駒ヶ岳       写真−3 仙丈ヶ岳より大仙丈ヶ岳
三日目 晴れ
今日は今回のメインコース。健脚者5人が参加した。内、若い小野君は北岳、間ノ岳経由で熊の平小屋へのコースに挑戦することになり、早朝の4時に出発した。
残りの4人は野呂川越へ登り返し、幾つかのピークを越えて三峰岳(2999m)へ着く。両俣小屋からの標高差1000m、相当に疲れた。ここで昼食。ここからの眺めもまたすばらしかった(昨日登った仙丈ヶ岳、明日登る塩見岳、眼前の間ノ岳・農鳥岳など)。
大井川源流の山、間ノ岳(3189.3m)へはザックをデポして往復した。間ノ岳の山頂で今日下山したB班に電話ができ、今、下山して甲府市内を走っているとのこと。
大井川の源流は間ノ岳と三峰岳の山体南面の農鳥小屋〜熊ノ平小屋に通ずる登山道の途中(正確には間ノ岳よりはむしろ三峰岳寄りにあたる)に見えた。
これより熊の平小屋(2502m)へ向かう。三峰岳からの下りはやせ尾根のガレバ場の道、ちょっときびしかったが、これを過ぎると楽な道となり、熊ノ平小屋へ。
小野君が小差で到着した。さすがに「疲れた、俺もとしだなあ」と(彼は今40代、学生時代から登山をしている)。
小屋はツアーの団体客(百名山三山の塩見岳〜間の岳〜北岳への挑戦のようだ)などが入って混雑した。外で、缶ビールで乾杯、眼前の間ノ岳・農鳥岳などの眺望を楽しむ。
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 写真−4   間ノ岳山頂にて  
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写真−5 三峰岳から仙丈ヶ岳          写真−6 大井川の源流
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写真−7 北岳山頂より間ノ岳          写真−8 北岳山頂にて小野君
四日目 晴れ
今日も晴天、小屋を出発して阿倍荒倉岳(2692.6m)へ登る。黒田さんが北方を振り返って、熊ノ平小屋付近の断層地形(ケルン・コル=断層線に沿って発達する凹地)を指摘した。新蛇抜山(2667m)を越え、北荒川岳(2697m)の登りにかかる、少々厳しかった。ここが、また断層地形で西側がガケ、東側は少し下ったところがお花畑。そこを10分ほど下ったところに水場があり、水を補給した。その水で塩見岳の登りにかかる前の地点で、お湯を沸かしココアを飲み昼食をとった。
塩見岳は大きい山体だ、東に北俣岳、西に天狗岳を従え、悠然と聳えている。その塩見岳への本格的な登り、四日目で疲れがたまってきた体にはこたえる。北俣岳分岐(2950m)から山頂へやっと登り着いた。小野君は早々と山頂に立ち手をふっていた。
下りは気の抜けない岩場、慎重に下り天狗岳を越えて塩見小屋へ。ここも満員であった。
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写真−9  北荒川岳からの塩見岳
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写真−10 塩見岳山頂で小野君が待つ       写真−11 塩見小屋より塩見岳
五日目 晴れ
今回山行の最終日、バスの時間に余裕があるので小屋を朝ゆっくりと出発した。
南アルプス南部の山々を眺望しながら、権右衛門山(2682m)をトラバースし、本谷山(2667m)を越え、さらに三伏山(2610m)を越える。三伏山頂から振り返った塩見岳はすばらしかった。
三伏小屋前で休憩し、下山にかかる。私は下りには自信があるが、今回ばかりはその下りも厳しく、へとへとになって豊倉林道終点のバス停にたどりついた。
バスは2時間かけて、鹿塩温泉〜小渋ダム〜松川インター経由で松川町の清流荘へ。温泉で5日間の汗を流し乾杯した。あっと云う間に時間が過ぎて帰りのバス乗車時間となる。高速バスは順調に中央道を走って、新宿駅西口着22時、解散。

3.南アルプスの隆起と断層群について
私は、今回南アルプスの北部を縦走して地形・地質的に大変興味を持ちました。それは、南アルプスがここ100万年ぐらいの間に急速に隆起したといわれる(東海地方に赤石山地の大きなレキがあらわれるようになってからまだ100万年ほどしかたっていない・・・。赤石山地の四万十層の地層の年齢が3000万年から1億数千万年であるのにくらべたら、その隆起して高い山地になったのはごく最近のことである。赤石山地が隆起しはじめたのは、プレートにのって南からやってきた伊豆半島が、第四紀になってから本州に衝突し、・・・赤石山地を押し上げたためだろうと考えられている。− 日本の山、岩波書店P143〜144)が、単なる隆起だけでないようです。
それは、仙塩尾根を歩いてみて仙丈ヶ岳と三峰岳の間の尾根及び三峰岳と塩見岳の間の尾根は、あたかも列車が衝突して脱線したかのように幾重にも折れ曲がっているのです。前者は仙丈ヶ岳の山体と間ノ岳・三峰岳の大きな両山体に押されたように尾根が折れ曲がっている。また、後者は熊の平小屋手前の断層と北荒川岳の断層で尾根が胴切りされ、そこで折れ曲がっていることです。
この問題を私の地学仲間の先輩にぶつけてみたら、飯田市美術博物館の松島信幸先生が「赤石山地のねじまがり現象として」説明しているとのこと。いずれにしても、南アルプスは、相当複雑な構造運動を受けてきたと推察されます。
図−2は日本の地質4−共立出版P47から引用したものですが、南アルプスは断層によってずたずたに切られていることに改めてびっくりしました。今回登った塩見岳などは2方向に断層が走っているようにみえました。
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図−2 南アルプスの地質概要

4.南アルプスの植生など
南アルプスは北アルプスに比べ雪が少なく地質も四万十層(しまんとそう)の堆積岩が中心で植生が非常に豊富です。仙塩(せんしお)尾根は平均2500m以上ですが、殆ど厚い森林に覆われています。
仙塩尾根の林層は仙丈ヶ岳〜三峰岳が総じてシラビソやコメツガなどの針葉樹が優先して暗い感じがしました。一方、三峰岳〜塩見岳の尾根は総じてダケカンバなどの落葉樹が優先して明るい感じがしました。私は前者を陰の仙塩尾根、後者を陽の仙塩尾根と呼びたい。
また、南アルプスは高山植物も非常に豊富で、我々が登った仙丈ヶ岳、塩見岳は見事でした。
一方、仙丈ヶ岳、三峰岳、間ノ岳、塩見岳ともに氷河地形(カール)がみられた。我々が泊まった仙丈ヶ岳の馬の背ヒュッテはモレーン(氷河が削りとって運んだ岩片が集積してできた堆石)の上にあるとのことです。
なお、塩見岳山頂からの下りで雷鳥のツガイに出会いました。
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写真−12 塩見岳で雷鳥に出会う        写真−13 タカネビランジ 

5.大井川の概要と水利用について
大井川は「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」とうたわれる、東海道の重要拠点として知られ、古来より社会経済の発展に大きな役割をはたしてきた。
大井川は幹川流路延長が168km、流域面積が1280kuあり、その上・中流部は南アルプスの中央部を深くえぐって流れ、水量豊富であることから発電や農業用水などに利用されている。図−3は中部電力のパンフから引用した大井川水系の水力発電の現状と下流の水利用状況です。

あとがき
価値観は人により異なりますが、私は山歩きが心身の健康に非常によいと思っています。今回の縦走でも、光岳(南アルプス最南端の百名山)まで縦走すると云う頼もしい若者や、私達はカメさんですとゆっくり歩く夫婦などに出会いました。
あまり無理をせず、今後も山旅浪漫を楽しみたい。
おわりに、参加者の皆様やご協力をいただいた方々に深く感謝申し上げます。

 

 

資料    南アルプス北部縦走 高低図 その1〜その3
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図−3 大井川水系の水力発電の現状と下流の水利用

 

 

 

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